「teddy bear」                    ◆春夏秋冬様


 
茶色のくまのぬいぐるみ。
 「なに、これ」
 一応銀次は確認のため、年上の恋人に聞いた。赤屍は少しだけ意外な顔をした。
 「テディベアですが・・・銀次君やっぱり知らなかったんですね」
 「知ってた!!」
 普通のサイズよりもちょっと大きめのテディベア。首にはご丁寧にも赤いリボンが
結んであった。
 そんなものが、赤屍の部屋のソファの上にでんっと座っていた。必要以上に家具や
インテリアを置かない人なのに。
 「これをどうしたのか聞いてるんだよ!」
 「買ったんですけど」
 世も末だ。運び屋一の嫌われ者Dr.Jと呼ばれ恐れられていた男がテディベアを
自ら買いに行くなんて!!人殺しされるよりはましだが、
 「銀次君ココアで良いですよね」
 「う、んー」
 微妙な心境だ。しばらくして深刻に頭痛までしてきた銀次をよそに、彼のために砂
糖たっぷりのミルクココアを淹れてキッチンからリビングに戻ってきた。
 赤屍は銀次の前にカップを置いてテディベアを抱え上げる。ぷっと吹き出す銀次。
 「なに笑ってんですか?」
 「だって〜、似合いすぎだよ赤屍ぇっ」
 けらけらと笑い出す年下の恋人を、やれやれといった感じで見下ろしていた赤屍だ
が、ふいにかがんでソファに座ったままの銀次の口をふさぐようにキスをしてやった。
 最初は軽いキス。次第に舌がはいってきて深いキスになった。
 「・・・っふぅ・・・何すんだよぉ・・・いきなりっ」
 頬をほんのり桜色に染めて上目遣いに睨んでやる。
 「人のこと笑ってくれたお礼ですよ」
 さも当然と言わんばかりにいってクスリと笑った。
 赤屍は銀次の隣に腰を下ろす。それを見ていつものように膝枕でべったりしようとしたが、
それより先にテディベアが膝の上にでんと座った。むっとした顔になる銀次。
 「・・・どうしました?」
 「なんかずるいじゃん。今日ここに来たばっかりなのに赤屍の膝の上占領してるなんてさ」
 独占欲丸出しのせりふに、今度は赤屍がぷっと吹きだした。
 「なっ、何笑ってんのさ」
 「いやぁ、銀次君はかわいいなぁと思いましてね」
 「かっ、かわいいって・・・むー、赤屍のおやぢぃ」
 「はいはい。実はねこれ、銀次君の誕生日プレゼントなんですよ」
 「え?なに、ひょっとして今日って・・・4月19日?」
 「えぇ。・・・やっぱり忘れてましたか」
 少しだけあきれながらテディベアを手渡した。
 「お誕生日おめでとうございます」
 意表をつかれた顔で、銀次はそれを受け取り、そして嬉しそうに笑った。
 ぎゅっとテディベアを挟んで赤屍を抱きしめた。
 「へへへ・・・覚えててくれたんだぁ」
 それに対し抱き返しながら赤屍はいった。
 「あたりまえですよ。大切な恋人の誕生日を忘れるほど薄情な男じゃありませんよ」
 大切な恋人。
 その言葉に銀次はカッと頬を赤らめる。とても素直な反応に赤屍はクスリっと笑った。
 「銀次君はホントに素直ですねぇ」
 「う、うるさいっ!」
 くまの頭のところに顔を埋めて隠れてしまった。
 さらにきつく抱きしめているとお日様のにおいがした。
 自分にはない物。お互いに持ってない物を持っていて・・・。それが二人を引き寄
 せているのだろう。だからすぐに恋に落ちた。
 「ありがと・・・赤屍」
 幸せな時間。いいことだなぁと思いながら銀次は目を閉じたのだった。

 END